沖縄をタックスヘイヴンに

明日、沖縄県知事選が告示される(28日投開票)。今回は民主党が候補者の擁立を断念したので、米軍普天間基地の県外移設を求める現職と、国外移設を求める前宜野湾市長の争いになるのだという。

しかしこの議論は、(いつものように)むなしさと徒労感に覆われている。米軍基地の県外移設や国外移設がほとんど不可能なことは、政治家はもちろん、基地に反対する沖縄県民にもよくわかっているはずだからだ。

1972年の返還以降、米軍基地受け入れの代償として、沖縄には巨額の援助(公共投資)が投じられてきた。しかししそれでも、沖縄は現在でも日本でもっとも貧しいままだ(平均所得は東京の半分で、失業率は全国一)。援助は一部の既得権層を潤すだけで、地域の経済発展にはなんに役にも立たなかった。

それでは、沖縄はこれからもずっと貧しいまま、基地の重圧に苦しまなければならないのだろうか。ここでは、沖縄県民の平均所得を劇的に増大させ、失業率を大幅に下げ、みんなが豊かになる実現可能な政策があることを論じてみたい。

私の提案は、とても簡単だ。

1)米軍基地を受け入れるかわりに、沖縄は日本国に対して自治権を要求する。

2)日本国の自治領として、タックスヘイヴン(オフショア金融センター)化を実現する。

ジャージー島やガーンジー島、マン島などイギリス周辺の島々は、淡路島や伊豆大島くらいの広さしかないにもかかわらず、イギリスでもっとも豊かな観光地・別荘地として知られている。実質的にはイギリス領だが、広範な自治権を認められていて、タックスヘイヴン化によって金融ビジネスの一大拠点になっているからだ。

ジャージー島などの金融制度に準じれば、沖縄(琉球)タックスヘイヴンは、具体的には次のような税制になるだろう。

  1. 金融商品(預貯金・株式・債券・ファンド・デリバティブなど)から得るインカムゲイン(利子・配当)とキャピタルゲイン(譲渡益)は非課税。
  2. 相続税・贈与税は廃止。
  3. (沖縄の)域外で得た所得には課税しない。
  4. 日本居住者は域内の金融機関を利用できない。

沖縄がタックスヘイヴンになれば、中国や台湾、韓国などから莫大な資金が流入するだろう。中国の富裕層にとっては、中国政府の管轄下にある香港よりも、日本とアメリカの保護下にある沖縄の方が資産の逃避先としてはるかに魅力的にちがいない(厄介者だった米軍基地の存在が、ここではタックスヘイヴンとしての沖縄の魅力を増すことになる)。

沖縄が東アジアのオフショア金融センターに成長するとわかれば、世界じゅうから金融機関が進出してくる。銀行、証券、生保、ファンド会社のほか、周辺業務も含めれば大規模な雇用が発生するだろう。

それに加えて、アジアの富裕層が(相続税・贈与税のない)沖縄に移住してくるから、地価は高騰するにちがいない。不動産業や建設業はもちろん、富裕層を対象とする観光業や飲食業などのサービス産業も活況を呈するだろう(ラスベガスやマカオのようなカジノをつくってもいい)。

*好景気によって物価が上昇するかもしれないが、関税を撤廃すれば、米や小麦、牛肉などは半額から3分の1の値段で輸入できるから、基礎的な生活コストは逆に引き下げることができる。

一人当たりGDPで見て世界でもっとも豊かな国は、ルクセンブルクやリヒテンシュタイン、モナコなどヨーロッパのタックスヘイヴンだ。こうした国々と比べても、東アジアの交通の要衝に位置し、美しい海に囲まれ、温暖な気候と魅力的な文化を持つ沖縄にははるかに大きな可能性がある(リヒテンシュタインは、山の中のただの小さな村だ)。

沖縄は第二次世界大戦で焦土と化し、戦後はずっと差別と貧困に苦しんできた。だが自治権を獲得し、タックスヘイヴン化を実現すれば、10年も経たないうちに世界でもっとも豊かな島に生まれ変わるだろう。そして驚くべきことに、この政策には1円の税金もかからないのだ(日本の居住者は沖縄タックスヘイヴンを利用できないから、国内の金融業や税収に影響を与えることはない)。

基地を誰に押しつけるかという、ババ抜きのような話ばかりでは未来になんの展望もない。基地の存在を逆手に取って、大きな夢とビジョン(それも実現可能な)を掲げる政治家がぜひ登場してほしい。