只野氏は、”事業”かどうかは納税者が自分で決めるもので、税務署に開業届を出して受理されれば、利益があろうがなかろうが事業所得だと述べています。しかし残念なことに、税法上、事業所得の定義はこれほど単純なものではありません。
昭和56年4月24日最高裁判決では、事業所得は、
1)自己の計算と危険において独立して営まれ、
2)営利性、有償性を有し、かつ、
3)反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる
業務から生じる所得をいう、と定義されています。
昭和49年8月29日東京高裁判決では、上記の3項目に加え、
4)その取引に費やした精神的あるいは肉体的労力の程度、
5)人的・物的設備の有無、
6)その取引の目的、
7)その者の職歴・社会的地位・生活状況等
の諸点が検討されるべき、と述べられています。
これらの司法判断を受けて税務当局は、事業所得とは「社会通念上、事業と認められるもの」でなければならないとして、その判断基準を、「いわゆる本業であって、その利益から生活費を求めるものであるか否か」に置いています。これを簡単ににいうと、趣味はもちろん、副業であっても事業所得とは認めない、ということです。
只野氏に「無税生活」が可能だったのは、所轄の税務署が事業所得の定義について不案内であったか、還付額が少なく、いちいち問題にするのが面倒だったためと思われます。ところが只野氏が『「無税」入門』を出版し、それが朝日新聞などで大きく報道され、インターネット上で「サラリーマンの節税術」として広まったことで、税務当局は事業所得の認定を厳しく行なうようになりました。
現在は、確定申告の際に、サラリーマンが事業所得の損失を給与所得と相殺しようとすると、税務署に出向いて事業内容を具体的に説明するよう要求されます。ここで上記の7項目の基準に照らし、社会通念上、事業と認められるものであることを十分に主張できないと、雑所得として修正申告するよう求められます。
もちろん「本業では食べていけない」という状況はままあることですから、赤字だからといって事業所得と認められないわけではありません。ただしほとんどの場合は、申告書を作成したり、修正申告書を書き直す時間のムダになると思われます。
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