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日本の中高生で、女子の自殺が男子を上回ったという謎(週刊プレイボーイ連載696)
SNSが若者の自殺の原因になっているとして、オーストラリアを筆頭に、アメリカやヨーロッパでも規制が強化されています。これについては専門家のあいだでもさまざまな議論がありますが、ここでは日本の状況がどうなっているのか見てみましょう。
『令和7年版自殺対策白書』によれば、日本の自殺者数は全体としては減少傾向にあるものの、小中高生の自殺者数は過去最多水準で推移しています。なかでも顕著な特徴は、男子の自殺が横ばいまたは減少傾向であるのに対し、女子の自殺が増えていることです。
もともと自殺者数は男性が女性よりかなり高く、欧米や日本のような高所得国では(10万人あたりの自殺者数で)2~3倍のちがいがあるとされています。日本でも15~19歳で、2015年には男子は女子を2倍以上、上回っていましたが、その差が徐々に縮まって、2024年にはとうとう女子の自殺者数が男子を超えました。こうした逆転現象は、すくなくとも先進国では例がないとされ、なにが日本の10代の女性を自殺に追いやっているかに注目が集まりました。
しかしデータを見ると、日本だけでなくアメリカでも10代の女性の自殺が大きく増えています。それでも男女の割合が逆転しないのは、女子ほどではないものの、男子の自殺率も高くなっているからです。そう考えると、日本の特徴は女子の自殺が増えているというよりも(これは欧米も同じなので)、男子の自殺が増えていないことにあります。
厚労省が作成した「小中高生自殺者数の年次推移」では、2020年に女子の自殺が急増しています(前年度から高校生1.75倍、中学生1.47倍)。この年は全国的に新型コロナの感染が拡大し、休校やリモート学習によって子どもの生活環境が大きく変わりました。それが自殺者数の増加に影響していることは間違いありませんが、コロナが収束した23年以降も女子の自殺は高止まりしたままです。
「自殺の原因・動機」を見ると、女子高生でもっとも多いのは「健康問題(32%)」と「学校問題(26%)」で、「家庭問題(16%)」を加えると全体の7割を超えます。学校問題では主に「学業不振」「(いじめ以外の)学友との不仲」「(入試以外の)進路に関する悩み」の3つが挙げられています。
それに対して男子高生では、「学校問題(33%)」がもっとも多く、そのなかでは「進路に関する悩み」と「学業不振」が大きな要因になっています。男女差としては、女子高生の自殺の動機として「健康問題」が際立って多いことが目立ちますが、このなかにうつ病などの精神疾患がどの程度含まれているかは、このデータからではわかりません。
この数年の日本の若者の自殺についていえることは、新型コロナであれSNSであれ、男子はその影響をほとんど受けておらず、女子のみに負の影響が集中していることです。2020年以降、10代の女性のあいだで疫病のように広がり、その一方で男子には影響を及ぼしていない要因とはいったい何なのか、専門家による今後の解明が待たれます。
参考「令和7年中における自殺の状況について」警察庁
註:この記事は多くの方に読まれたようなので、参考までに元データをアップしておきます。
(1)小中高生別、性別自殺者数(10万人あたり)の年次推移。令和2年(2020年)以降、中学生と高校生女子の自殺者数が大きく増え、その後も高止まりしています。一方、男子の自殺者数に大きな変化はありません。

(2)年齢男女別自殺者数の前年比較。令和6年(2024年)、7年(25年)ともに19歳以下の自殺者数は男より女が多いものの、20~29歳では男の自殺者数が大きく増えて、それ以降の年齢区分では男の自殺者数は一貫して女の2~2.5倍です。

『週刊プレイボーイ』2026年9月7日発売号 禁・無断転載
キプロスの金融危機の教訓とは?
ダイヤモンド社と共同で行なっていた「海外投資の歩き方」のサイトが終了し、過去記事が読めなくなったので、このブログで再掲載していくことにします。
今回は2013年4月公開の記事です。(一部改変)

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キプロスは地中海の東端、「小アジア」とも呼ばれるアナトリア半島の南に位置する風光明媚な島国だ。といっても、2013年に金融危機が起きるまで、紀元前に遡る長い歴史のあるこの国に関心を持つ日本人はほとんどいなかっただろう。
エジプトとメソポタミアを結ぶ海の要衝であるキプロスは、ヒッタイトやアッシリアといった古代オリエント諸国、エジプト王朝、アケメネス朝ペルシアの支配を受けた後、アレサンダー大王に征服され、やがてローマの属州となった。
ローマ帝国の分裂にともないキプロスは東ローマ帝国の所領となるが、1191年、十字軍遠征途上にこの島に立ち寄ったイングランド王リチャード1世がキプロス王国を建国する。当時はイタリアの海洋都市の勃興期で、キプロス王国は十字軍遠征(エルサレム奪還)の最前線であると同時に、レバント(東地中海)貿易の一大拠点となった。その経済はイタリア諸都市に依存し、15世紀末、相続争いの混乱のなかでヴェネチア貴族の娘だった女王が主権を祖国(ヴェネチア共和国)に譲り王国は消滅した。
16世紀、新興のオスマン帝国が小アジアを席巻しヨーロッパに攻め上ると、キプロスはその軍門に下る。その後、第一次世界大戦でイギリスに併合され、第二次世界大戦後にようやく独立を達成した。
だが3000年に及ぶ数奇な歴史を持つこの島では、独立後もギリシア系住民とトルコ系住民が対立し混乱が続いた。
1974年、ギリシアとの合併を求める勢力がクーデターを起こしたことをきっかけにトルコ軍が介入して島の北部を占領、それまで混住していた住民は、ギリシア系は南のキプロス共和国、トルコ系は北のキプロス連邦トルコ人共和国(北キプロス)に分かれることになった。もっとも北キプロスは国際社会の承認を受けていないため、一般にキプロスというと南のキプロス共和国を指す。
南北分断後のキプロス島は実質的な戦時下で、国連によるたび重なる仲介でも両者の隔たりは大きく、1990年代に至っても砲撃や銃撃戦が勃発した。だが97年にキプロス共和国がEU加盟候補になると状況は大きく変わりはじめる。 続きを読む →
ケンブリッジ大学の元黒人教授はなぜ死んだのか?(週刊プレイボーイ連載695)
8月14日、ロンドン南部の住宅で41歳の黒人男性が死亡しているのが発見されました。警察によると事件性はなく、自殺と見られています。
この事件がイギリス社会を大きく揺るがしたのは、男性が著名な作家・教育社会学者のジェイソン・アーデイで、9日前にケンブリッジ大学教授の職を辞任したばかりだったからです。
報道などによると、ガーナ人の両親のもとで南ロンドンに生まれたアーデイは、自閉症で11歳まで言葉を話すことができませんでした。さらに18歳まで読み書きができず、大学1年目に失読症と診断されたと語っています。
それにもかかわらずアーデイは教育学の博士号を取得し、高等教育における人種差別に関する共著書を出版、グラスゴー大学の社会学教授を経て2023年2月、名門ケンブリッジ大学に迎えられます。
人種の壁や発達障害を乗り越えて、大学史上、最年少の若干37歳でケンブリッジの教育社会学教授になったアーデイは、たちまちメディアの寵児になり、その後の2年間で5つの大学から名誉博士号を授与され、数々の賞を受賞し、政府や団体の委員会の要職に就きました。
ところがその華やかな成功と同時に、この黒人教授はさまざまな疑惑に包まれるようになります。
それまで噂のレベルだった盗作の疑いが最初に公になったのは26年7月で、ネイサン・コフナスという哲学者がアーデイの博士論文を盗作検出ソフトで調べ、「多くの箇所が最小限の編集で盗用されており、ときには元の資料からのコピー編集ミスがそのまま残っている」との記事をネットに投稿しました。
コフナスは「認知能力には人種による遺伝的なちがいがある」と主張し、黒人の知能が低いと示唆したことで、ケンブリッジ大学講師の職を解雇されていました。当然、アーデイはこれを「人種差別的な中傷」と見なし、大学側も擁護しました。
ところがその後、『タイムズ』などの一流紙が盗用疑惑を報じはじめ、それが学歴詐称に広がります。アーデイが修士号を取得したり、客員教授を務めていたと述べていた大学が、次々とその事実を否定したのです。
それ以外にも、アーデイの小学校時代の同級生が「言葉を話せなかったなどということなない」と証言するなど、自伝の多くが作り話ではないかとの疑惑が噴出し、ケンブリッジ大学も調査を始めざるを得なくなります。それを受けてアーデイは、自ら辞任を発表したのです。
イギリスの大学は白人の教授がほとんどで、多様性に欠けていると批判されてきました。そこで大学幹部は、DEI(多様性・公平性・包摂性)の広告塔として都合のいい黒人教授を採用したのだと右派は批判しています。アーデイは、ケンブリッジ大学の「(逆)人種差別」の被害者だというのです。
この事件では、「レイシズム」だと批判されていた者が正しく、その“被害者”が盗用や学歴詐称をしていたことで、「人種正義」を唱えてきたリベラルは窮地に立たされています。これからケンブリッジ大学は検証と説明責任を果たさなくてはなりませんが、それは「ウォーク(社会問題に意識高い系)の時代の終わり」を象徴するものになりそうです。
参考:「英ケンブリッジ大の元教授を遺体で発見、盗作疑惑の渦中に」BBC NEWS JAPAN 2026年8月15日
『週刊プレイボーイ』2026年8月31日発売号 禁・無断転載