『「読まなくてもいい本」の読書案内』という、ちょっと変わったタイトルの新刊が発売されます。小説を除くと、『(日本人)』以来の書下ろしです。
明日(27日)発売で、Amazonでは予約が始まりました。都内の大型書店では今日くらいから店頭に並びはじめます。
この本のアイデアは、取材に来る若いひとたちから「どんな本を読めばいいんですか?」としばしば訊かれたことから思いつきました。話を聞いてみると、彼らはたくさんの本を読んでいるのに、もっとたくさんの本を読まなければいけないと思っていて、「読むべき本」の重圧に押しつぶされそうになっているのです。
本書のコンセプトはこれとはまったく逆で、問題は本の数が多すぎることにあるのだから、最初にすべきは「読まなくてもいい本」を決めることだ、というものです。そうすれば「読書リスト」をすっきり整理できて、どの本をどういう順番で読めばいいのかがわかってくるはずだ、という読書戦略です。
とはいえ、「読まなくてもいい本」を列挙する、という無粋なことをしているわけではありません。
1960年代以降、テクノロジーの進歩にともなって、とりわけ人文科学、社会科学の分野で巨大な地殻変動が起きています。この変化(あるいは「知の革命」)は、インターネットの登場やコンピュータのエクスポネンシャル(指数関数的)な高性能化によって、近年、さらに加速しています。これを「知のパラダイム転換」と呼ぶならば、それは主に複雑系、現代の進化論、ゲーム理論(ミクロ経済学)、脳科学などの分野でこれまでの常識を破壊しているのです。
そこで本書では、こうした「知の革命」のおおまかな枠組を紹介し、古いパラダイムで書かれた「名著」をとりあえずあとまわしにすることで、読書の見晴らしをよくすることを提案しています。逆にいうと、「名著」は新しい知のパラダイムで読み直してこそ意味がある、という話なのですが。
ちなみに、これは私独自の(オリジナルな)見解というわけではありません。いまや「知のパラダイム転換」の影響は広範囲に及び、ビジネス書、実用書、自己啓発本、経営書から健康・ダイエット本まで、このことを知らないと著者がなぜそのような主張をするのかわからなくなってしまいます。
たまたま手元にグーグルの人事担当上級副社長ラズロ・ボックの『ワーク・ルールズ!」(Googleの人事シシテムを解説した面白い本)があるのですが、そこでもグーグルがなぜ、どう動いているかを、「行動経済学と(進化)心理学の最近の研究から明らかになっていること」のレンズを通して見るのだと、当たり前のように書かれています。「新しい知」は、学者や哲学おたくではなく、若いビジネスパーソンにこそ必須の“教養”なのです。
とまあ、こういう本なのですが、この紹介だけではどんなことをやっているのか見当もつかないと思います。興味を持たれた方は、ぜひ書店で手にとってみてください。
橘 玲