サービス残業というのは、就業時間外に働いたにもかかわらず残業代が支払われないことで、労働基準法では明確に禁じられています。それにもかかわらず、日本ではサービス残業が常態化しているとしばしば指摘されます。「法治国家」であるはずなのに、なぜ違法状態が野放しになっているのでしょうか?
ほとんどのサラリーマンがサービス残業を仕方がないものとして受け入れていますが、この悪習が許されないのには理由があります。対価を払わずにひとを働かせるのは奴隷労働で、それを否定することで近代が成立しました。このままでは日本は、「前近代社会」といわれても反論できません。
会社(雇用者)が労働基準法を遵守しているかどうかは、各自治体に置かれた労働基準監督署が監督し、サービス残業を見つければ正規の残業代を支払うよう指導することになっています。それにもかかわらず違法行為が常態化しているとしたら、そもそも労働者保護の制度に根本的な欠陥があることになります。
何年か前に、霞ヶ関の中央省庁で「居酒屋タクシー」が問題になりました。終電がなくなった後の深夜帰宅の際に、官僚が公費で、馴染みの運転手から缶ビールやつまみなどの「接待」を受けていたというものです。
官僚の帰宅が深夜になる大きな理由は「国会待機」で、政府答弁の原案を作成するために、議員からの質問がわかるまで関連する省庁の担当者が拘束されることをいいます。一部の議員(民主党の元首相が有名)が夜中まで質問を教えないと、担当者は仕事もないのに帰宅を許されず、省庁内にとどまることになるのです。
ところで、官僚も労働者(被用者)ですから、国会待機による拘束に対しては残業代や時間外手当が支払われなければならないはずです。しかしなぜか、国家公務員は労働基準法の適用対象外とされていて、サービス残業が当然とされています。
中央省庁だけでなく、地方自治体でもサービス残業は常態化しています。
さいたま市では2011年度に、40代の職員(課長補佐)が1800時間を超える時間外勤務をして、年間給与と同等の800万円ちかい残業代を受け取り、年収が1500万円を超えたことが市議会で問題にされました。1800時間というと、平日だけなら7時間超、土日を含め1日あたり5時間に相当しますから、じゅうぶん過労死が危惧されるレベルです。こうした異常な労働環境が明らかになったのは、さいたま市が正直に残業代を支払っていたからです。他の自治体も、裁量労働制などを使って不都合な現実を隠しているだけで、一部の職員に過度な負担をさせている実態は同じようなものでしょう。
労働基準監督署は厚生労働省の出先機関ですが、国会待機などを見るかぎり、厚労省も「サービス残業」の温床になっているのは明らかです。この国では、「サービス残業を禁止する法律がサービス残業でつくられる」という話がブラックジョークにならないのです。
政府や自治体がブラック化してるなら、労基署が民間企業を強く取り締まれるはずはありません。サービス残業は経営者の自覚の問題などではなく、日本の社会に巣食う構造的な病なのです。
『週刊プレイボーイ』2013年3月4日発売号
禁・無断転載