どういうアルゴリズムか知らないが、You Tubeを開くと「架空請求の詐欺師に電話してみた」というお勧め動画が表示されるようになった。
携帯メールなどに、「アダルトコンテンツの利用料が未払いになっている」「すぐに支払わないと訴訟を起こす」などの督促状を大量に送信し、不安になって電話してきたひとからお金を振り込ませる、というのが架空請求詐欺の典型的な手口だ。
メールには連絡用の電話番号が記載されているから、電話すれば詐欺師が出てくる。そこで被害者の振りをしたネットユーザーが、詐欺師との会話をYou Tubeにアップするようになったのだ(しかし、いろんな面白いことを考えますね)。
実は私も何度か架空請求のメールを受け取ったことがあり、「電話してみようかな」と思うものの、なんだか面倒臭くてそのままにしていた。いまではそんな好奇心ですら、ネットが満たしてくれるのだ。
さっそく何本か聴いてみたのだが、話の展開はほとんど同じで、アダルトコンテンツの運営会社から債権回収を依頼されたと名乗る業者(たいていは若い男性)が、立て板に水の勢いで請求金額や料金の内訳、支払方法(近くの銀行のATMから振り込ませる)を説明する。請求額は相手の様子で決めるのだろうが、20~50万円という感じだ。
被害者を装って話を聞き終えると、こんどは反撃する番だ。「会社の住所はどこなのか」「アダルトサイトにアクセスした履歴を教えろ」などあれこれ質問し、返答に窮した相手が電話を切っても、また電話をかけてさらに問い詰める。そんなことを4、5回繰り返すと、相手もようやく自分が弄ばれていることに気づいて、「これからぶっ殺しに行くから待ってろ」などと豹変する(ここがいちばんの聴きどころだ)。
もちろん詐欺師が自ら姿を現わすはずもなく、最後は着信拒否されて終わるのだが、どれもなかなかの臨場感だ。
しかしそのなかで、こんなやり取りを見つけた。
「あなたのやってること、詐欺でしょ」
「はい、詐欺です」
「そんなことやっていいと思ってるのかよ」
「思ってません」
「謝れよ」
「はい、すみません」
高校中退でパチスロでスカウトされた、という若い詐欺師はあっさりと犯罪を認め、謝罪した。そのうえで、「こんなことして儲かるの?」と訊かれて正直にこう答える。
「世の中、あなたみたいな意地の悪いひとばかりじゃないんですよ。なかには100万、200万払うひともいるんです」
警察庁によれば、振り込め詐欺の被害件数は変わらないものの、被害金額は前年度から大幅に増加したという。無邪気な詐欺師の話を聞いていると、振り込め詐欺の根絶が難しい理由がよくわかる。
詐欺師たちは、架空請求が、数を集めれば必ず“当たりくじ”を引く確率のゲームだということを知っているのだ。
橘玲の世界は損得勘定 Vol.26:『日経ヴェリタス』2013年2月17日号掲載
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