ちょっとした本屋にはかならず“モテ本”のコーナーがあります。その名のとおり、どうすればモテるかを指南した恋愛ハウツー本です。その中身はさまざまですが、多くはモテるファッションや会話術、デートスポットやラブホの誘い方など、個人的な努力について書かれています。
ところで、恋愛には相手が必要です。この世のすべての恋愛術をマスターしても、女の子がいなければ宝の持ち腐れです。
「なにを当たり前のことを」と思うかもしれませんが、これはけっこう奥の深い問題です。モテるために大事なのは、ファッションセンスやシャレた会話ではなく、どれだけ異性と知り合える機会を持っているか――社会的ネットワークのなかで自分がどの場所にいるか――かもしれないのです。
アメリカでは、恋愛行動と性行動についての大規模な社会調査が行なわれています。それによると、知り合いの紹介で配偶者やセックスパートナーと出会ったひとは約7割で、「自力」で出会ったひとは3割程度しかいません。そのなかでももっとも多いのは友人の紹介で、35~40%にもなります(次に多いのは家族による紹介の15%です)。ほとんどのひとは、ゆるやかな友だちネットワークのなかでカノジョ(カレシ)を見つけているのです。
恋愛でなぜ紹介が有効なのかは、ものすごくかんたんに説明できます。バーで(道端や電車のなかでも)ばったり出会った異性のことを、あなたはなにも知りません(当然、相手もあなたのことを知りません)。そんな二人がなにかのきっかけでつき合いはじめて長続きするかどうかは、まさに「神のみぞ知る」です。
ところがあなたの親友のカノジョが、自分の友だちをあなたに紹介する場合、二人のことをよく知っていて、お似合いのカップルだと思っています。自分のことは自分ではよくわかりません。だったら、自分(たち)のことを知っている他人に任せてしまったほうがうまくいく可能性が高いのです。
集団のなかでの恋愛(性愛)行動は、いまでは社会心理学の重要なテーマです。その研究によると、ひとは絶対的な評価(キムタクと比べて8割はイケてる)よりも、所属する集団のなかでの相対的な地位(あいつよりはイケてる)を気にします。
チンパンジーは、アルファオス(アルファメス)を筆頭に、集団内で序列をつくります。これは友だち集団も同じで、アルファオス(男の子のリーダー)はアルファメス(女の子のリーダー)とごく自然にカップルになります。一夫一婦制では、集団内の序列を上げることがよりよい(繁殖力の高い)異性を獲得する鉄板の戦略なのです。
恋愛戦略(繁殖戦略)のちがいで、男と女のすれちがいも説明できます。
さまざまな調査で、女性は、魅力的な女性とつき合っている男性に魅かれることが知られています。これは、モテることが、その男性の繁殖能力の高さの社会的な証明になっているからです。なにかの偶然で素敵なカノジョができると、それと同時に“モテキ”がやってくるのです。
ちなみに男性は逆に、“モテる”女性を避ける傾向があります。競争相手が多いとそれだけ繁殖可能性が下がるのですから、これも「進化論的に合理的」な行動なのです。
参考文献:ニコラス・A・クリスタキス/ジェイムズ・H・ファウラー『つながり 社会的ネットワークの驚くべき力』
『週刊プレイボーイ』2012年4月16日発売号
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