日本は大家族制に戻っていく? 週刊プレイボーイ連載(33)

経済格差が広がっている、といわれています。「一億総中流」の時代とは時代の雰囲気がずいぶん変わったのはたしかで、これは主に三つの原因で説明できます。

経済格差の最大の要因は高齢化です。

20歳の頃はだれでも貯金の額は同じようなものでしょうが、商売に成功したり失敗したり、定年まで勤め上げたり途中で退職したり、人生はさまざまですから、年をとるにしたがって経済的なゆたかさには大きな差が生まれます。社会全体の平均年齢が上がれば、それにつれて経済格差も自然と大きくなっていくのです。

ふたつめは、家族が小さくなってきたことです。

日本でもむかしは祖父母、父母、子ども夫婦、孫の4世代が同居するのがふつうで、世界の多くの国々ではいまでも大家族が一般的な居住形態です。貧しい国では家族がいちばんの安全保障で、みんなが身を寄せ合って暮らしているのです。

大家族では、一人あたりの生活コスト(住居費や食費)はきわめて安くなります。夫の給料で妻と子どもを養う核家族や、家や食事などすべての支出が個人単位の一人暮らしでは、当然、生活コストは高くなります。

ひとびとの暮らし方が核家族や一人暮らしに変わっていくにつれて、生きていくだけで精いっぱいの(家賃と食費を払ったらなにも残らない)ひとたちが増えていきます。単身世帯や母子家庭が多くなれば、経済格差も広がっていくのです。

経済格差の三つめの要因が仕事の二極化です。これが一般に「グローバリズム」と呼ばれるもので、「中国や東南アジアの労働者と同じ仕事をしているだけでは、彼らと同じ賃金しか受け取れない」という原理のことです。

先進国と新興国の労働者が同じ条件で競争する「グローバル資本主義」では、特別な仕事や専門性の高い職業(クリエイティブクラス)を目指せといわれます。ミュージシャンや映画俳優、スポーツ選手、作家・芸術家などの「特別なひとたち」のほか、医師・弁護士・会計士・ファンドマネージャーなどの「専門家」がよく例に挙げられます。

これは理屈としては正しいのでしょうが、すべてのひとがクリエイティブクラスになれるような社会が成立するはずはありません。彼らが多額の報酬を手にできるのは、希少性(ごく少数しかいない)があるからです。だれでも弁護士になれる社会では、平均的な報酬はマクドナルドの時給並みになってしまうでしょう。

経済格差の原因を三つに分類してみると、日本の未来がなんとなく見えてきます。

高齢化にともなう経済格差の拡大は一種の自然現象ですから、人為的に矯正する必要はありません(無理に平等にしようとすると共産主義になってしまいます)。クリエイティブクラスとマックジョブの二極化はこれからもつづくでしょうが、これは個人の問題で、だれもが経済的に成功できるユートピアはあり得ません。

それに対して、核家族化や単身化にともなう経済格差の拡大は簡単に解決できます。

成人しても実家で暮らす“パラサイト”が話題になりましたが、これはきわめて経済合理的な選択です。国家の提供する安全保障が不安定になれば、日本はまた大家族制の社会へと戻っていくのかもしれません。

参考文献:大竹文雄『日本の不平等』

 『週刊プレイボーイ』2012年1月6日発売号
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