「貧困ビジネス」を擁護する

「簡単にお金を儲ける方法はありませんか?」と聞かれることがある。たいていは「そんな都合のいいことは無理ですよ」と常識的にこたえるのだけど、実は世の中にタナボタみたいな話はけっこう転がっている。それらはたいてい、制度の歪みから生じる。

「ニューヨークのホームレス」で貧困ビジネスのことを書いたのは、6年前の2004年だ。でも私はそれよりずっと前に、知り合いの精神科医からこの新しい商売のことを聞いていた。空き家になっているアパートの家主が地元のヤクザと結託して、ホームレスに部屋を貸して生活保護を申請するケースが出てきて、福祉事務所が困惑しているという話だった。

彼と話しながら、これに規模の経済を導入すればものすごく儲かることに気がついた。廃ビルを改装し、新宿や上野でホームレスを集めてきて、生活保護から家賃・光熱費・食費を回収する。このビジネスのスゴいところは、リスクがない(お金は日本国が払ってくれる)ことと、ひと助けになることだ(住むところがあれば誰だってうれしいだろう)。

この計画(実はかなり本気で考えた)を実行していれば、私は貧困ビジネスのイノベーターになっていたかもしれない。

その後、私と同じことを思いつくひとたちが現われ、そのなかにホームレス出身の社長がいたこともあって、大きな話題になった。それが一転して、弱者を搾取し、生活保護制度を悪用するとして激しいバッシングを浴びたことも周知のとおりだ。

ところでこのビジネスは、ほんとうに反道徳的なのだろうか? ホームレスに家を貸し、生活保護の申請を手伝ってあげて、家賃や謝礼を受け取るのは犯罪なのだろうか?

一部の福祉団体やメディアによる執拗なバッシングによって、こうした常識的な反論はいっさい封じられてしまった。ホームレス支援は、完全なボランティア(無給)でなければならない。これでは、誰もやりたがらないのは当たり前だ。

ニューヨークの福祉事業では、ボランティアではなく、ビジネスが奨励される。ただしここでは、収益は生活保護費ではなく、ニューヨーク市から直接、事業者に支払われる。この仕組み(イノベーション)によって、ニューヨークのホームレス問題は劇的に改善したのだ。

問題は「貧困ビジネス」ではなく、生活保護制度にある。

ニューヨークで話を聞いた簡易宿泊施設の若い経営者は、ハーバードを卒業した後、ニューヨーク市の福祉行政の転換を受けて貧困ビジネスに参入した。彼のような理想主義的な起業家がこの街にはたくさんいる(彼の話は『永遠の旅行者』で書いた)。

アメリカでは福祉制度は州ごとに異なるが、日本と同じく現金給付が一般的で、それが既得権となっている。しかしこれでは、貧困問題は解決しないと彼はいう。

「お金を恵んでもらうと、ひとはどこまでも堕ちていくんだ。それを見ているとかなしくなるよ」

その言葉を、いまも覚えている。

16歳で妊娠し、ホームレスになってシェルターに身を寄せた女の子の部屋。麻薬中毒で、AIDSにも感染している。(2003年Lower East side,New Yorkで)